黒田日銀 自信と自戒

「赤い銀行≠ェ20〜30年物の超長期国債を買っているようだ」

9月末、債券市場関係者にこんな噂が広がった。9月上旬に1.8%台だった30年債の利回りが1.6%台まで下がった (価格は上昇)のがきっかけだった。

「赤い銀行」とは、赤い店舗看板の三菱東京UFJ銀行を指す。通常、銀行は金利上昇リスクを小さくするため保有する国債の残存期間は平均2〜3年と短い。30年物のような超長期債に手を出すのは極めて異例だ。

メガバンクが超長期債の買いに走る背景にあるのは、債券市場に定着しつつある日銀依存の構図だ。

日銀の異次元緩和から半年。新規発行額の7割超に及ぶ国債を毎月買い続け債券市場を掌握、金利上昇を抑え込んだ黒田総裁は次に、どんな一手を考えているのか。

その「胸の内」をうかがうヒントは、就任ちょうど半年にあたる9月20日、都内のホテルで開かれた講演にあった。

「一時的にではない。2%を安定的に持続することが重要」。会場の金融・大企業関係者ら数百人を前に黒田総裁は改めて、金融緩和の継続を表明した。

就任時に掲げた「部下安定の目標」をなぞったようにも聞こえるが「中長期的なインフレ率、実施あの物価上昇率が平均的に2%程度で変動するまで」「2%の『錨』をしっかりと人々の気持ちに定着させるまで」。緩和の期限について、例えを交え、丁寧に説明した。

黒田総裁が言いたかったのは、「そんなに簡単に金融緩和をやめはしない」というメッセージだ。

「2年でやめるのか」「2%に達したらすぐやめるのか」。4月に表明した「2年で2%」という言葉が一人歩きしたことで市場関係者に沸いた不安感を払しょくする狙いもあった。

「文言のひとつひとつをかなり前から精査して、周到に準備した」。日銀幹部は明かす。

黒田日銀のスタートは順風を言っていい。株高・円安が進行kし最大の目標である物価は上昇に転じた。国債の長期金利も当初は乱高下したが、今は0.6%台に抑え込んでいる。

ここで大きな役割を果たしているのが、財務省が発行した国債を銀行などが購入し、翌日、日銀に売る「日銀トレード」だ。「いくら国債を買っても日銀が買い取ってくれる」。債券市場の参加者は官製相場≠フぬるま湯につかりながら、金利低下に一役買ってきた。

だが安閑とはしていられない。衝撃的な試算がある。ゴールドマン・サックス証券の西川ちゃんによると今のペースで日銀が国債を買い続ければ20年には国債に占めるに日銀の保有割合が5割を超えるという。現在は15%超で米連邦準備理事会(FRB)とほぼ同水準だが今後、先進国に類を見ない水準に膨らむ見通し。

これは日銀による「政府債務の肩代わり」に見え、財政健全化が進んでいないと映りかねない。世界がそう見れば、国債への信認が揺らぎかねない。

「もっとも重要なのは財政信認の確保。意義のある決断をされた」。黒田総裁は安倍首相による消費増税の決定について、4日の金融政策決定会合後の記者会見で安堵の表情を見せた。

黒田総裁は財務省出身。財政背の信認に対するリスクには誰よりも敏感だ。だからこそ9月まで続いた消費増税論議では、「先送りした場合の国際価格がお幅に下落するリスクはどれほどあるか分からない」と訴え続けた。

黒田日銀はこれで1つのヤマ場を越えた。だが政府が社会保障の抜本改正に本腰を入れる姿勢はまだ見えない。米国の景気や債務問題、量的緩和第3弾(QE3)の行方も不透明。リスクはまだまだ潜んでいる。市場からは物価上昇と景気回復にみちを入れるため、追加緩和を求める声もある。黒田総裁は引き続き難しいかじ取りを迫られている。


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