若者よ、資金流出の三十苦に備えよ

山川電機にほど近い公園に涼しい風が吹く。高くなった空の下、若林ちゃん(26)がため息をつく。「なんや若林、秋の憂いけ?ひと夏の恋が終わったんけ?」いかにも50代上司が部下に言いそうな計順平の言葉を無視し、若林は再びため息をつく。

定期的に部下とコミュニケーションをとり、悩みを把握するのも上司の仕事と考える計。若林を昼食に連れ出すと、広報部の種田ちゃん(28)に遭った。若林と同期入社だ。「涼しぃなったし公園で食べへんけ?」種田の提案に乗り、3人で弁当を買って公園を訪れたのだった。

「なんしか、若林ちゃんはトリレンマ世代らしいんですわ」サラダに塩をパラパラとかけながら種田が言う。先週末に少額投資非課税制度(日本版ISA=NISA)のセミナーに参加した若林。そこでのこの難しい言葉を吹き込まれたようだ。

トリレンマ世代とは、フィデリティ退職・投資教育研究所の野尻ちゃんが提唱した言葉。今の若者世代は定年退職後「親の介護」「自分の老後」「子供の教育」という3つの資金流出に同時に見舞われるというのだ。

今や生まれたばかりの赤ちゃんに4人に1人は母親が35歳以上。父親がちょっと年上の40歳だとすれば、赤ちゃんが成人を迎えたときに定年退職することになる。20歳といえばまだ子供だ。給料がなくなるのに、1人暮らしでもされたらたまらない。同時に親は80代後半に入る。婚期が遅い若者は、3つの時限爆弾を抱えてしまうというわけだ。「せやのに若林ちゃんは老後のための資金の蓄えがゼロみたいですわ。せやかて、それが普通ちゃいますか。今から老後の積み立てしてる人なんていますか?」そんな種田の言葉に若林が反論する。「それが、いるねんて」

同研究所の「2013年サラリーマン1万人アンケート」によると、20代男性のうち、老後の生活資金として用意できている金額がゼロと答えたのは半分。残り半分はちゃんと蓄えている。100万円以上の用意がある人は35%もいる。「昔はクルマとか酒でも金使って遊んだもんや。そういうヤツの方が概して仕事ができた」と計。これも50代の上司が言いそうな昔話だが、今の若者には理解されない。

「俺も今から積み立てせなアカンようになって、不安になったわけですわ」若林は弁当の梅干しを口にする。「それでNISAを利用したろっちゅーことやな」計はそう言いながら自身がNISAセミナーで勉強したことを思い出す。

「100万円ルール」これが計が覚えた鉄則だった。月々いくらかずつNISA口座に積み立てる。NISA口座の期限が切れる5年後、口座残高が100万円を超えていた場合、通常の課税口座に移す。100万円未満だったら、新たなNISA口座に移すというルールだ。

「理由は少しややこしいです」セミナーで講師はホワイトボードに図を描きつつ説明してくれた。NISA口座を使って投資できるのは100万円まで。ここで確認するべきは100万円に値上がり益や配当は含まないこと。投資元本の上限が、100万円と言うことだ。5年後、もしNISAの口座残高を見て、100万円を超えていたら、それは運用益が出たことを意味する。投資元本は100万円以下のはずだからだ。

「これを理解した上で2つのケースを考えます」NISA口座で100万円筒いっぱいMAX投資したAさんとBさん。5年後、AさんのNISA口座は150万円になっていた。100万円を超えているから、通常の課税口座に移す。この場合150万円が課税口座でのいわば「元本」になると考えれば分かりやすい。

口座移行後、さらに運用が成功し180万円になると、当然30万円分の運用益には課税されるが、NISA口座で値上がりした50万円分には課税されないのだ。新しいNISA口座では新たに別の積み立て投資を始めればよい。もちろん、口座を映さずに利益確定し現金化してもOK。売却益50万円分に本来かかる税金が非課税になる。

一方、NISA口座で100万円を5年間運用し、80万円になってしまったBさん。通常の口座に移すと、80万円が「元本」になる。その後、どうにか100万円に戻ったとすると、20万円分に税金がかかってしまう。それならば新しいNISA口座に80万円を移し、投資を続けた方がよい。

「これが100万円ルールや」習ったばかりのことを披露する計に「なるほど。さすが部長っすね」と若手2人が合いの手。「そのあとは、年代別NISA活用法や。年代ごとに適した活用法がちゃうしな」計は若手2人の弁当を指さす。「結婚もしていない君らはそんな高い弁当を買えるっちゅーわけや。俺とは違う。当然、投資のやり方も違ってくる」若手の悩みを聞くはずの昼食で、結局上司がとうとうと講釈する。よくある光景ですな。

年収300〜500万円層 退職後の備え欠く

フィデリティ退職・投資教育研究所のアンケートによると、年収300〜500万円の人のうち、退職後の準備として「特に何も準備していない」のは40.9%に達する。一方、年収1000〜1500万円で何もしていないのは20.8%にとどまる。「積極的に資産運用している」と答えた人は19%もいた。年収が低くなるほど老後に向け何も準備ができていないようだ。


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